役員借入金と法人税
中小企業の決算書を見ると、やたらと『役員借入金』という勘定科目が出てきます。あるいは、短期借入金や長期借入金の中に銀行借入と混ざって、役員借入金が計上されていることがあります。
結論から言うと、役員は会社にお金をかさない方がいいです。百害あって一利なし、と思ってもらってもいいと思います。
★役員借入金のある会社の特徴
役員借入金のある会社の特徴の一つに、『納税が嫌い』というのがあります。どうしても法人税を払いたくないので、どこからか領収書を集めてきたり、事業に関係あるのかよく分からない様な社長の趣味としか思えないようなものを経費だと言って入れてきたり、あの手この手で納税を回避している会社が多いというのが印象です。もちろん、程度に差はありますが・・・
当然、納税をしないので、純資産は全然増えていきません。純資産が増えなければ、借入金を起こすしかありません。その中に、銀行借入と混ざって社長からの役員借入金が発生します。
ところが・・・です。
その役員借入金もすごい負担をした後のお金なんです ↓↓
★役員報酬が役員の口座に振り込まれるまで
役員から会社にお金を貸すということは、一般的に考えた場合、それは役員報酬が元になっているはずです。
役員報酬からは何が天引きされていますか?
・所得税
・住民税
これだけのものが引かれています。
★本当に法人税はもったいないのか?
所得税や住民税、社会保険料が引かれて、社長の口座に入金されているのです。あれだけ、納税の嫌いな社長が、自分の給料から引かれる納税には文句を言いません。(言っても天引きされるからしょうがないというのはあると思いますが)そして、そんな大切なお金を会社の事業資金に投入されています。しかも、銀行借入の返済などが優先されるため、社長がいれたお金はほぼ自分のところには返ってくることはありません。
法人税を払うのが嫌いな経営者でも、所得税や住民税、社会保険料を引かれた自身のお金が会社につぎ込まれていくことについてはあまり過敏にならないケースが多いんです。多分、理屈じゃないんだろうなと思いますが、どうせなら少しでもメリットのある方を選んだ方がいいですよね。
結局のところ、この図式になるのですが、今の法人税の実効税率は利益が800万円までであれば、30%ありません。800万円を超えても30%ちょっとです。
一方、社会保険料は、労使折半という事になってますが、オーナー社長の場合、会社が負担しようが自身が負担しようが同じなので実質的には100%負担という事になります。この社会保険料の負担がやっかいで、労使で約30%の負担を強いられています。
それに所得税と住民税と負担が続きます。しかも、所得税は累進課税なので、所得の多い経営者はより負担が大きくなります。
法人税を負担した方がよさそうですよね。
★役員借入金は立派な相続財産
色々と負担して振り込まれた自身の報酬を会社に貸し付けるということは、まさに社長サイドから見たら貸付金です。これは、相続財産の一つになります。
現実的には戻ってこないだろうなぁと思っていても、しっかりと相続税の計算にはカウントされてしまいます。
相続税の納税が必要だから、会社に貸している貸付金を返してもらおうと思っても現実には中々厳しいところがあります。そもそも、会社にお金が無いから借りているわけですからね・・・
かといって増資に切り替えると、均等割りが増えたり、中小の特例が使えなくなったり、監査が必要になったりとスッキリと解決できないケースも生じてきます。
★色々と考えると法人税を払うのが一番
法人税と所得税等における負担割合や相続財産へのカウント等を考えると法人税を払うのが一番スッキリとします。
純資産が厚くなれば、それだけ銀行への信用も高まり、交渉がスムーズになります。
無担保・無保証の借入が起こせるようになった方がいいと思いませんか?納税を回避して、役員借入金を入れるより、こっちの方が経営者にとってメリットは大きいと思います。
純資産の部
貸借対照表の右下に『純資産の部』というのがあります。
損益計算書の項目も含めて、一番分かりにくいところですが、会社経営の上では純資産の部の理解はとても重要になります。
純資産の部について理解が深まると、会社の状況をよりリアリティを持って感じることが出来るようになります。
早速、純資産の部を見ていきましょう!
★純資産の部の構成について
純資産の部は、次のような内訳になっています。
多く会社の純資産の部はこの資本金と繰越利益剰余金で構成されています。
資本金 ⇒ 社長が会社を始めるにあたって用意(出資)したお金の金額
繰越利益剰余金 ⇒ 会社がこれまでに獲得した黒字額と赤字額の和
資本金は社長が会社を始める時につぎ込んだ自腹のお金の金額ということになります。
繰越利益剰余金は会社が動き始めてから会社が稼いだお金の額ということになります。
★資本金と繰越利益剰余金の共通事項
資本金は経営者がつぎ込んだお金です。つまり、経営者が所得税や社会保険料等を負担した後の手取りをつぎ込んでいるという事です。会社的にいうと、税引後利益のようなものになります。
繰越利益剰余金も、損益計算書上の税引後利益の蓄積になるので、こちらも税金負担を行った後の正味の手残りということになります。
共通するのは、いずれも税金負担後の利益をつぎ込んでいるということです。
★繰越利益剰余金について数字でイメージしてみる
繰越利益剰余金について具体的な数字で説明すると次のようになります。
第1期:税引後利益 1000 繰越利益剰余金 1000
第2期:税引後利益 1800 繰越利益剰余金 2800
第3期:税引後利益 △500 繰越利益剰余金 2300
第4期:税引後利益 700 繰越利益剰余金 3000
4期累計:税引後利益 3000 繰越利益剰余金 3000
繰越利益剰余金は、税引後利益と連動していることが分かりますね。
黒字になれば繰越利益剰余金は増え、赤字になれば繰越利益剰余金は減ります。
設立から現在までの黒字と赤字を合算したものが繰越利益剰余金となります。
従って、繰越利益剰余金を設立年数で除するとその会社の平均的な収益力がわかります。
損益計算書に表れる成績は1年ごとにリセットされてしまいますが、その痕跡は貸借対照表の純資産の部に残ることになります。
中小企業においては、追加の出資はあまり一般的ではないので、純資産の部の増減要因はこの繰越利益剰余金、すなわち毎期毎期の黒字・赤字によるものとなります。
★負債(借入金)と純資産(繰越利益剰余金)の特徴を理解する
負債の特徴は、当社の成績等は関係なしに、契約に基づいてどんどん減少していきます。時間の経過とともに目減りしていきます。この目減り分を戻そうと思うと新たに融資の契約をしなければなりません。ただ、いつも自社の条件の通り融資が実行されるかどうか不確実であるという点があります。もしかしたら、目減りしたままかもしれません。他力の要素が多分にあります。
その点、純資産の部は、当社が赤字にさえならなければ目減りすることはありません。つまり一方的に目減りしていくということがないのです。しかも、黒字になれば純資産は増えます。誰かに返せと言われることはありません。自力でなんとでもなります。
これで、なんとなく負債の部と純資産の部のそれぞれの特徴と共通項がご理解いただけたらと思います。
詳しい内容は、別のブログで負債と純資産の関係を取り上げたいとおもいます。
★経営の安定には純資産の部の充実が不可避
負債は、半強制的に減っていき、その減った分の補填も受けられるかどうか不透明であることは、先ほど書いた通りです。
この様に考えると、負債に頼った経営が非常に不安定であることがお分かりいただけると思います。
今は、元本返済の猶予など負債が目減りしていかないような交渉を金融機関と行うことができますが、その様な交渉が難しい時代もありました。貸し剥がし等は、今の返済猶予とは反対の動きで、元本を引き上げられてしまうということをいいます。
これでは、事業の縮小を余儀なくされるか、あるいは最悪は事業停止に追い込まれることになります。生殺与奪の権を握られている状態にあるということになります。
不安定な経営状態から抜け出すためには、純資産の部の充実しかありません。毎期確実に利益を出し、純資産の部を厚くしていくのです。
その事業年度の業績がいいと、節税という大義名分のもと無駄な支出を増やす会社があります。それでいて、借金が減らない、資金繰りが苦しいという経営者がいます。負債と純資産は補完関係です。
純資産が増えないのに、借金が減るわけないのです。借金から解放されたい、資金繰りをよくしたい等、安定した経営を望む場合には、純資産の充実、すなわち、税引後利益の最大化に毎期挑戦することが大切となってきます。
★経営の拡大にも純資産の部の充実は不可避
売上を伸ばしたい、会社を大きくしたいという場合も純資産の部の充実は不可避です。
その前に、一つ大切なポイントがあります。
『売上の規模と資産の規模は比例する』ということです。
ある意味当たり前のことですが、意外と見落としがちです。
資産が100億円もある会社の年商が1億円だったら、何やってんだ?となりますよね。反対に資産が1億円しかなくて、年商が100億円という会社はほとんどありません。
図にすると次のような感じになります。
このように考えると、売上を伸ばす=資産を増やすというこになります。ラーメン店を例に考えると分かりやすいと思います。屋台のラーメン店は、小さく始められますが売上にも自ずと限界があります。一方、店舗を何店も持ったラーメン店は、店舗設備など大きな資産が必要となりますが、その代わり売上も大きくなります。
優劣ではなく自社の方向性がどこを向いているか?ということになりますが、拡大路線という方向性を向いているのであれば、資産の部の拡大は避けられません。
こうなったときに問題となってくるのが、どうやって資産の部を拡大させるか?ということになります。下のイメージ図をご覧ください。
左側の会社は、会社の純資産(過去の利益の蓄積)で資産を調達しています。一方、右側の会社は金融機関からの借入によって資産を調達しています。
同じ規模の会社ですが、余裕度が全然違うことが分かると思います。左側の会社は、ほとんど借金がない状況です。その気になれば、今の純資産と同じくらいの借入を新たに起こすことが可能です。ということは、潜在的には売上を2倍に増やすことができるチカラを持っているということも意味します。仮に、新規取り組みが失敗しても、借金で足元をすくわれることもなさそうです。
右側の会社どうでしょう。ほとんど借金です。現状では、更なる借入は難しい状況と言えます。ということは、潜在的には今すぐ売上を増やせるような体制にはないということになります。むしろ、その借金の多さに資金繰り等に奔走しなければいけないかもしれません。
一見、売上規模が同じで競っている2社ですが、財政的な余裕度が全然違うため、2~3年後には、片方は売上が倍に、もう片方は瀕死の状態にということもあり得ます。
★まとめ
いかがでしたでしょうか?
純資産の部の充実は、安定経営の視点でも、事業拡大の視点でも非常に大切なポイントであることがお分かりいただけたと思います。
純資産の部が過去の税引後利益で構成されているという点から言えることは、会社経営は税引後利益最大化を考えて行動するべきだということです。
もし節税を行うのであれば、正しい節税を行うようにしてください。有効な節税より先に、無駄な節税が実施されていることが多い様に思いますのでお気をつけください。
貸借対照表はこうやって見る。
決算書や試算表を見る時に、皆様どのようにご覧になっていますか?一番多いパターンが、損益計算書を見て、売上と利益の推移を確認する、だと思います。
では、貸借対照表は???
貸借対照表となると、下手をするとほぼ見ない、あるいは、よく分かんないけど一応見ているという経営者の方が多いのではないでしょうか。
きちんと、貸借対照表と損益計算書の特性を理解して確認しているという経営者の方は少ないというのが現状だと思います。
個人的には、極端な言い方をすると、経営者にとっては貸借対照表の方が損益計算書より重要な書類だと思っています。理由は簡単で、中小企業の経営のキモである【キャッシュの情報と借入金の情報】が載っているからです。赤字でも会社は潰れませんが、現金が底つけば会社は潰れます。中小企業においては、唯一といっていい現金の調達手段が借入です。この二つの重要な情報が載っているのが、貸借対照表です。
なので、もしこれから決算書や試算表をご覧になるときは、貸借対照表の方から見ていくというスタイルに変えていただくことをオススメします。さらに、この順番で見ていく方が俯瞰的に会社の状況を把握するのに適しています。
下図をイメージしてください。
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経営の安定度について
多くの経営者が、良い会社というのをイメージすると次のような会社をイメージされます。
★黒字である
★自社ビルだ
★ベンツに乗っている
いかがですか?良い会社の印象を持ちますよね。
黒字かどうかとかは、金額は分からないにしても社長同士の会話で『うちは、今期はなんとか黒字で、』等と意外と情報が耳に入ってきたりします。
自社ビルやベンツに至っては、隠しようがありません。
そうすると、【黒字、自社ビル、ベンツ】が揃うとリッチな会社に見えてきちゃいます。『お隣さんは、余裕があっていいなぁ、うちなんて毎月不安定で・・・』なんて思っちゃたりします。
でも、実際に蓋を開けてみると、
黒字でもしんどい会社はあるし、赤字でも余裕のある会社があります。
自社ビルを持っていても、余裕のない会社もあります。
ベンツに乗っていても、余裕のない会社もあります。
これが、中小企業の実態です。外から見える情報だけでは、その会社の真の姿は分からないと思った方がいいです。
真に余裕のある会社とは、黒字であることでも、自社ビルやベンツを持っていることでもありません。
真に余裕のある会社とは、貸借対照表が綺麗な会社、貸借対照表に余裕のある会社です。
会計事務所や金融機関の人間は、この貸借対照表が綺麗な会社は、実直な社長が経営する会社だなと考えます。
どんなに黒字が出ていても、ベンツを所有していても、貸借対照表がボロボロではその会社に対する信用はイマイチになります。
そういう意味では、貸借対照表は会社の信用そのものです。
どうして、貸借対照表がボロボロだと信用が低いのか?
どうして、貸借対照表が綺麗だと経営に余裕が生まれるのか?
その謎を貸借対照表から紐解いていきましょう!
★ある同業の会社AとBの現在の貸借対照表
会社の規模は同じ1000ですが、A社はそのほとんどを負債で補っています。B社はそのほとんどを純資産(過去からの利益の蓄積)で補っています。
★もし、翌期100の赤字を出したらどうなるか?
赤字=純資産のマイナスです。100の赤字を出した場合には、純資産が100減少することなります。
A社は、ついに会社の運営に必要な資産を全額負債で賄う状況に陥りました。常に返済のプレッシャーと戦うことになります。次年度も赤字になれば【債務超過】になります。
B社も純資産が100減りましたが、まだまだ蓄積はあります。負債にも十分対応できます。
単年度だけを見れば、両社ともマイナスの100で事業年度を終了しています。でも、全然、余裕度・危険度が違うことが分かると思います。
これが儲かった、儲かっていないだけでは計り知れないものになります。言い換えれば、損益計算書からは見えない部分となります。
★更なる借入に耐えられるか?
もし、何らかの資金需要が発生した場合に、追加の借入が可能かという視点でこの貸借対照表をご覧ください。
いかがですか?
A社の貸借対照表は、負債と純資産のバランスが頭でっかちになっています。一方、B社はまだ下半身(純資産)がどっしりしています。
もし、自身が銀行員あるいは投資家であった場合に、A社に200を貸し付けるでしょうか?『こんなに借金を積み上げて、本当に戻ってくるのかよぉ~。どうやったら、この借金が減るのか示してくれよ。』と思いますよね。
『銀行は雨の日に傘を取り上げる』使い古された言葉ですが、A社の様な会社であれば貸す側の気持ちになると、拒絶するのも致し方なしだと思われたはずです。
★まとめ★
中小企業の経営者の皆様には、是非、貸借対照表をどう作っていくかという意識を思考の中に入れていただきたいと思います。
貸借対照表のことをバランスシートと言いますが、まさに貸借対照表の中身をバランスよくキープしていくことが、安定的かつ長期的な経営に繋がります。
安定経営の会社になれるかどうかは、経営者の思考が【PL脳からBS脳】になれるかどうかにかかっています。
収益力がそこまで高くなくても安定した経営をしている中小企業はあります。そんな会社の経営者は、例外なくBS(貸借対照表)を積み上げていくイメージの経営をされています。
反対に、収益力があっても(最終的に納税を嫌って散財するので収益力がるとは言えないのですが・・・)、PL脳の経営者が経営する会社は、いつも資金繰りに追われています。
このブログで、貸借対照表や損益計算書をいろんな角度から見ていきますので、ちょこちょこ覗いてみてもらえればと思います。
貸借対照表について
損益計算書は、直感的に分かる決算書です。ほとんど何の知識もなくても、それが1年間の収支を示していることは誰でもわかります。
ところが、貸借対照表となると、
何の役に立つの?
何のためにあるの?
この様に思われている経営者の方もいらっしゃると思います。
先ずは損益計算書と貸借対照表に載っている情報について整理してみましょう。
損益計算書 ⇒ 会社の業績や納税に関する情報
貸借対照表 ⇒ 現金預金や借入金がどのくらいあるかの情報
こんな風に書くと貸借対照表も結構重要な情報が載っていることが分かりますね。現金預金が少なくて困っている会社、借金が重くて返済に苦労している会社など、損益計算書からだけではその会社の状態を伺い知ることが出来ない情報が貸借対照表には載っています。
会社の状況を総合的にみるには、損益計算書に加えて貸借対照表もみていく必要があるというのことが見えてくると思います。
もう一つ、損益計算書と貸借対照表の特徴を並べてみたいと思います。
損益計算書 ⇒ 毎年情報がリセットされる
貸借対照表 ⇒ 情報はリセットされず積み上がっていく
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〇〇計画についてまとめてみる
・下降気味の業績をくい止めたい
・借入金が減らない(増えている)
・会社を大きくしたい
何かしら現状に不満、不安、課題を感じていらっしゃる経営者の方は、事業計画を作成して見られることをオススメします。よくそんなの無駄だという声を聴きますが、中途半端に終わるので無駄に終わることが多いだと思います。継続して取り組むことが出来れば非常に有効な手法です。
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行動計画を絶対にやり遂げる
行動計画・実行計画が会社の業績改善、利益改善に欠かせないことを『売上が増える行動計画』で書かせていただきました。
行動計画を絶対にやり遂げるためには、ある大前提があります。このことは、『売上が増える行動計画』では書かなかったのですがとても大切なことなので今回取り上げてみたいと思います。
必要とする利益が決まれば、必要とする売上も算定されます。決算書や売上などのデータからは、どの部分の数字にアプローチしていくのが効果的であるかは、ある程度見えてきます。そして、実行と管理を行っていくことで、業績改善の確度が高まります。
この確度を高めていくための重要なポイントが、
『人』です。
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