貸借対照表について
損益計算書は、直感的に分かる決算書です。ほとんど何の知識もなくても、それが1年間の収支を示していることは誰でもわかります。
ところが、貸借対照表となると、
何の役に立つの?
何のためにあるの?
この様に思われている経営者の方もいらっしゃると思います。
先ずは損益計算書と貸借対照表に載っている情報について整理してみましょう。
損益計算書 ⇒ 会社の業績や納税に関する情報
貸借対照表 ⇒ 現金預金や借入金がどのくらいあるかの情報
こんな風に書くと貸借対照表も結構重要な情報が載っていることが分かりますね。現金預金が少なくて困っている会社、借金が重くて返済に苦労している会社など、損益計算書からだけではその会社の状態を伺い知ることが出来ない情報が貸借対照表には載っています。
会社の状況を総合的にみるには、損益計算書に加えて貸借対照表もみていく必要があるというのことが見えてくると思います。
もう一つ、損益計算書と貸借対照表の特徴を並べてみたいと思います。
損益計算書 ⇒ 毎年情報がリセットされる
貸借対照表 ⇒ 情報はリセットされず積み上がっていく
どういうことかというと、損益計算書は事業年度ごとに売上も経費もゼロからスタートします。だから、前期に多額の赤字を出していても、当期は大幅な黒字という事もありえます。どんなにやんちゃをしても、事業年度が替わってしまえば、それは分からないのです。
ところが、貸借対照表に載っている、現金や売掛金、在庫、建物、借入金は、翌期にゼロになることはありません。途切れることなく、その残高が増減します。従って、建物を売却したり除却した場合は別ですが、数字が劇的に変化するという事は通常ありません。
回収できない売掛金を処理しないでいると、ずっとそのまま不良債権として残り続けます。借入金も返済が進まなければずっと残り続けます。赤字はリセットされますが、借入金はリセットされないのです。
このリセットされないというのが、貸借対照表の最大の特徴です。過去の悪い部分(膿)も、それを表に出さないといつまでも居座り続けるのです。
粉飾などをして損益計算書を綺麗にすると、そのしわ寄せが全部貸借対照表に現れます。お化粧した売上(PL項目)は売掛金(BS項目)として残り、お化粧した売上原価(PL項目)は商品在庫(BS項目)として残り続けます。損益計算書で嘘をつけば、その爪痕は貸借対照表に残り続けるのです。
会社が儲かっている(=損計算書的に利益が出ている)からと言って、必ずしも優良会社と言えないのがこの辺りあります。いくらでも調整が出来てしまうのが損益計算書です。
さて貸借対照表は、次のような形をしています。
何度も何度も見たことがある形だと思います。
貸借対照表には、現金預金や借入金など経営者の悩みの種であるものの残高情報が載っていることは先に書いた通りです。
ちょっと抽象的に言うと、貸借対照表は、会社の商売道具とそれを用意するために調達した資金源が載っている書類です。
何か商売を始めようとすれば、大なり小なり道具が必要となります。その道具を揃えるためには、お金が必要となります。その商売道具を自前で用意を出来ていれば、負債はありませんが、通常は全額自前で用意できないので借入金を起こしたりします。それが負債です。
貸借対照表の左側 ⇒ 商売道具 + 現金預金
貸借対照表の右側 ⇒ 自前で用意しした金額 + 借りてきた金額(支払を待ってもらっているお金)
書籍等では、貸借対照表の左側には会社の財産が載っていると書かれることが多いですが、よりリアルにいうと商売道具が載っているという風に捉えた方が理解がし易いと思います。
ここで問題が生じます。そして多くの中小企業がその問題に頭を抱えているというのが現在の日本の中小企業の実態です。
貸借対照表に数字を入れてみたいと思います。
左右の残高は、必ず一致します。
例えば、この状況で在庫1000を用意して開業したとします。
商売道具として在庫は必須のものですよね。これがないと商売が始められません。しかし、開業準備等で1か月目は販売活動をすることが出来ませんでした。
でもそんなことはお構いなしに、返済はスタートします。
資産に変化はないのに、負債は減り始めます・・・。
経営者のタイミング、つまり売ったら返済するということが出来たらいいのですが、こちらの販売や入金の事情とは関係なく、勝手に返済は始まります。左右の残高を経営者が完全にコントロールすることができないのです。これが経営者を苦しめる一つの要因になります。
経営を貸借対照表で考えると、会社は常に負債の減少圧力にさらされているといえます。栓の抜けた風呂桶の様なものです。
風呂桶の中は二つに分かれていて、負債の方は半強制的に減少しています。イメージすると上の図の様になります。この状況で、貸借対照表の左右の残高をキープする方法は、全部で3つです。
会社が継続的に事業を営んで行こうとすると、この3つのいずれかの方法で貸借対照表の左右の残高を健全な形でキープする必要が出てきます。
★その1 ⇒ 純資産を増やす
負債の減少分を純資産の増加で補うパターンです。負債が50減っても純資産が50増えていればトータルでは1000をキープできています。
純資産を増やす方法は、利益を出す方法と追加出資をする方法ですが、中小企業で追加出資は考えにくいので、現実には利益を出して負債の減少分を補填していくということなります。
半強制的に減っていく負債が、そうではない純資産(利益の蓄積)に置き換わっていっているので、一番正常なカタチといえます。
稼いで利益を出して借入金を返している一番健全なカタチです。
★その2 ⇒ 追加借入をする
減少分を追加で借入することができれば、全体を1000にキープすることが出来ます。借金があって、トントンの経営を続けている会社に多いパターンになります。
利益を出さないと借金が減っていかないというのが、この2つのパターンからも分かると思います。
業歴の長い中小企業に多く見られるパターンでもあります。借入金が増えもしないが減りもしない。利益はトントンというカタチです。
★その3 ⇒ 負債の減少分だけ資産を処分する
負債が50減った分だけ、資産も50減らすというケースです。不要な資産を処分して換金して借入金の返済に充てる。大企業などが業績が悪くなった時に、本社ビルを売却したりしたというニュースが流れることがありますが、それがこのパターンに当たります。
中小企業でも業歴が長くなると、事業に必要かどうかあいまいな資産が載っていたりします。そうすると、それを処分し少しでもお金に換えることが出来れば負債の減少につながります。資産リストラは、人員リストラと違って痛みを伴いにくいので、比較的実行に移しやすいリストラ策と言えます。
申告の時など、年に一回は無駄な資産がないかチェックするようにすると資産・負債の圧縮につながりますし、たとえ回収できる金額が少なくて損失が出る場合でもその損失分だけ納税が少なくなるというメリットもあります。
★オマケ ⇒ 赤字になるということ(超重要)
純資産にも増減要因がそれぞれあります。
純資産の増加要因は、黒字であり、減少要因は赤字ということです。
借入金をしながら赤字だと、毎月の返済による減少分(上側の濃いオレンジ)と純資産の減少分(右側の濃いオレンジ)を補うために追加の借入が必要になります。赤字補填のための借入が会社に与えるダメージの大きいこと、金融機関が赤字補填のための借入に後ろ向きである理由が視覚的にもお分かりいただけると思います。
中小企業には、借入金があるのに納税を嫌って赤字にする会社がありますが、そのツケはいつか払わないといけないということもイメージしていただけると思います。
もし浪費系の節税対策を行っていた会社は、この仕組みを理解して従来の姿勢を通すか改めるか考えていただければ幸いです。
節税についても別の機会に書いていきたいと思います。