借入金の返済原資について考える
借入金の返済原資について考えてみたいと思います。
何本か借入を行っていると、それぞれの借入金の返済原資が何であるか?ということが分からなくなってきます。
これは、借入を起こす時にも同じことが言えます。どうやって返すのか?ということを意識しないで借入を起こすと将来的に資金繰りに窮するようになり今より厳しい状況に陥ることになります。
お金には色がついていない様で、ついています。返済原資を意識するという事は、お金の色を意識するという事に通じます。本来色のついているお金を一括りにして扱うので資金繰りがおかしなことになりはじめるのです。
なんとなくお金があるから、設備投資をしてみた。パァと従業員に還元した。社長が欲しかった車を買ってみた。結果、資金繰りが悪化・・・この様なことがあらゆる企業で起こっています。
企業は赤字でも倒産しませんが、お金がまわらなくなれば倒産します。返済原資について考える、お金の色について意識するということは、企業経営においてとても大切なことです。
前置きが長くなりましたが、借入金の返済原資について考えていきましょう。
返済原資は3つ。
★売掛金・在庫
★固定資産
★税引後利益
借入金の返済原資は行きつくところは、この3つになります。
返済原資は返済の方法です。どうやって返すかという出口ですね。
これを入り口側、借入の目的からも見てみましょう。
★運転資金のため ⇔ 売掛金・在庫
★設備投資のため ⇔ 固定資産
★赤字補填、土地購入のため ⇔ 税引後利益
これから一つずつ対応関係を見ていきましょう。これを意識すると、なんとなくの利益計画や資金管理から脱却できます。
★運転資金と売掛金・在庫
売掛金は、販売が完了し資金化を待っている状態です。在庫は、これから販売して資金化する資産です。これらに共通しているのは、キャッシュが寝ているということです。会社はこの間、何もできない状況です。機会損失が発生している状態ですね。
この状態を解消するために借りるのが運転資金です。
返済のタイミングは売掛金が回収された時、在庫が販売されて現金で回収された時ということになります。ということは、この運転資金は毎月借入が発生し、毎月返済が生じるという性格の借入となります。
毎月借りて、毎月返済しているので、見た目上はずっと借りているということになります。本当に返済して終了するのは、事業をたたむときになります。12月末で閉店する企業は、12月末に売掛金が発生し、1月に回収して売掛金はゼロとなります。その回収したお金で1月に返済して終わりです。1月はもう売掛金はありませんから新たな借入は必要ありません。つまり店じまいした翌月や翌々月の回収代金で返済して借金は清算ということになります。
結論
適正額の運転資金目的の借入金の返済原資は売掛金等。原則返済しない。
これが借入金の返済原資の一つ目になります。
★設備投資資金と固定資産
設備投資をするときに借りた借入金の返済原資は、その固定資産ということになります。
『固定資産で返す??どういうこと??』と思われるかもしれません。
固定資産は毎期減価償却をしていきます。例えば、耐用年数10年の1億円の設備を導入したとします。そうすると、毎期1000万円の減価償却費が発生します。この減価償却費が返済原資となるということです。
仕訳で考えてみましょう。
①融資を受けたとき
預金 1億円 / 借入金 1億円
②設備を導入したとき
設備 1億円 / 預金 1億円
この時点で、会社にあるのは1億円の設備と1億円の借入金です。
この状況から返済がスタートします。
③1000万円の売上を上げたとき
預金 1000万円 / 売上 1000万円
④減価償却費を計上したとき
減価償却費 1000万円 / 設備 1000万円
⑤借入金を返済したとき
借入金 1000万円 / 預金 1000万円
⑥当期の利益
売上 1000万円
減価償却費 1000万円
当期利益 0万円
1000万円売り上げて、そこから同額の減価償却費という経費が発生しているため利益は0円です。一見、利益が出ていないからマズイなと思いますが、③以降の預金の動きに注目してください。売り上げた時に1000万円のキャッシュが入ってきています。一方で、減価償却費という経費を計上した時は、キャッシュが出ていません。この時点で利益はゼロですが、キャッシュは1000万円増えています。⑤の返済のタイミングでは、利益はゼロですが、キャッシュは1000万円あるので返済が無理なくできています。
減価償却費とは固定資産の目減り分です。設備資金は固定資産で返すというのはここからきています。
⑤の返済と⑥の利益から次の関係が維持されていれば、固定資産導入のための借入金は無理なく返済できるということが見えてきます。
返済額 ≦ 減価償却費 + 当期利益
1000 ≦ 1000 + 0
この算式をみていただくと気がつくのですが、返済額と減価償却費は事前に分かるという事です。変数は当期利益だけです。当期利益のシミュレーションを行うことで、設備投資を行うかどうかの意思決定につなげることができるのです。
この設例では返済年数と耐用年数が同じで考えているため、当期利益0円でも無理なく返済できるという判断になりますが、現実には返済年数と耐用年数が異なる場合も多く、設備投資によって一定程度の当期利益確保が必要となるケースがあります。
今後設備投資を行うときはその是非について検討していただければと思います。
結論
設備投資のための借入金は、その固定資産の減価償却費+当期利益で返済していく
③赤字補填、土地購入資金と税引後利益
赤字補填で借入をするとき、土地購入のために借入をするとき、保証金・権利金等の支払いのために借入金をするとき、その返済原資は税引後利益となります。
土地、保証金、権利金と設備資産は同じ固定資産の部に記載されますが、前者は後者とと違って減価償却できません。
そうすると、先ほどの算式『返済額 ≦ 減価償却費 + 当期利益』が次のようになってしまいます。
返済額 ≦ 減価償却費 + 当期利益
赤字のために借りた資金はというと、これは素直に黒字により得た資金で返すしかありません。
つまり、償却できない資産の購入や赤字のために借りた資金というのは税引後利益で返済することになります。
これが実に大変です・・・
今、自社の税引後利益はいくらありますか?その税引後利益で借入残高を割ってみてください。それが、現状が続いたとしたときの債務償還年数(完済までの予定年数)です。
計算してみると、自分の寿命よりも長い債務償還年数という会社も結構あったりします。
こうなってくると抜本的に事業の見直しをしていかなければいけないということになります。
結論
赤字補填、償却のない資産の購入のために借入を起こすと返済がしんどくなる・・・
★まとめ
いかがでしたでしょうか?
自社の借入の返済の道筋が分かると対応も変わってきますよね。一口に借入と言ってもその性格は千差万別です。売掛金や固定資産を返済原資とした借入と税引後利益を返済原資とした借入ではその後のしんどさが全く違ってくることがお分かりいただけたと思います。
最後に簡単にチェックする方法をお伝えしたいと思います。
◆用意するもの
・勘定科目内訳書の借入金の内訳書
・固定資産台帳
借入金の内訳書の余白に、紐づく資産の簿価を書いていきます。固定資産や売掛金と紐づかない借入金、負債の方が帳簿価格より大きい場合はその差額、これを合計したものが税引後利益で返済する借入金となります。
これを当期の税引後利益や過去3年間の平均利益で除すことで、現状における債務償還年数が求められます。
あるいは、目標とする借金完済の年数があるのであれば、その借入金を目標年数で除することで達成すべき税引後利益が見えてきます。
できれば、、、どうしようもなくなってからではなく、決算の時など1年に1回はこの借入金の状況をチェックし、早い段階で対策を立てていくことをお勧めいたします。